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高知地方裁判所 昭和22年(ワ)235号 判決

主文

被告波介村農地委員会が、昭和二十二年五月十一日原告須衛所有の別紙第一目録記載の土地につきなした買収計画を取り消す。

被告高知県農地委員会が、昭和二十二年七月十日前項買収計画に対する原告須衛の訴願を棄却した裁決を取り消す。原告慶太郞の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを折半し、その一を原告慶太郞、その余を被告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は、主文第一、二項同旨並に被告波介村農地委員会が昭和二十二年九月七日原告慶太郞所有の別紙第二目録記載の土地につきなした買収計画を取り消す、被告高知県農地委員会が同年十一月十三日右買収計画に対する原告慶太郞の訴願を棄却した裁決を取り消す、訴訟費用は被告等の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、原告須衛は別紙第一目録、原告慶太郞は同第二目録各記載の農地の所有者であるところ、原告等の孫厚寛が訴外市原明良の養子となるに際し、昭和十五年一月これを厚寛に分与することとし、賃料一ケ年一坪につき籾一升五合の割合で明良に耕作させた、然るに厚寛は明良と離縁することになつたので、昭和二十一年二月十八日原告等と明良との間に合意による返地契約が成立し、第一目録の土地は原告須衛において、その頃引渡を受けて自作中のものであり、第二目録の土地は昭和二十一年度稲作収穫後原告慶太郞に引き渡す約束であつたところが明良は之を履行せずして其の後農地委員会に対し遡及買収を請求したので、被告波介村農地委員会は第一目録の土地につき昭和二十二年五月十一日、第二目録の土地に付同年九月七日買収計画を定めた。これに対し原告等はそれぞれ適法に異議の申立をしたが却下されたので更に訴願をしたが被告高知県農地委員会は同年七月十日原告須衛に対し、同年十一月十三日原告慶太郞に対し訴願棄却の裁決をした、然るに前述の如く本件賃貸借は昭和二十一年二月十八日合意によつて解約されたのであり而も第二次農地改革の実施前である、その当時には知事の許可は不要であるから、この解約は自作農創設特別措置法第六条の二第二項第一号に所謂適法且つ正当な場合に該当し、更に又明良が合意の上円満に返還した土地に対しその後の農地改革法令に準拠して遡及買収を請求するが如きは明かに買収請求権の濫用であつて、同条同項第二号に所謂小作人の請求が信義に反すると認められる場合に該当するから被告波介村農地委員会の買収計画及被告高知県農地委員会の裁決はいずれも違法であると陳述した。(立証省略)

被告等訴訟代理人は、原告等の請求を棄却するとの判決を求め答弁として、原告等の主張事実中、本件土地が原告等の所有であつたこと、これを訴外市原明良が賃借小作したこと、並に被告波介村農地委員会が第一目録の土地につき明良の請求により遡及して、第二目録の土地につき当時の事実に基き、それぞれ原告等主張の日時に買収計画を定め、これに関し原告等主張の如く異議訴願の申立がありこれが却下の決定及び棄却の裁決があつたことはこれを認めるが、その余の事実は否認する、第一目録の土地は原告須衛が昭和二十一年二月十八日明良から取り上げて同年度より耕作しているが、第二目録の土地は明良が現在迄引き続き耕作している。養子厚寛の問題は事情に過ぎないから、本件買収とは関係がない、第一目録の土地は昭和二十年十一月二十三日当時第二目録の土地はその当時から現在に至るまで明良が賃借耕作した小作地であること並に原告等は同居の夫婦で、合算して自作地一町六反二畝、小作地七反四畝十八歩計二町三反六畝十八歩を有し本件土地は限定面積一町九反を超える小作地であることは争う余地がなく、被告波介村農地委員会がこれを自作農創設特別措置法第三条第一項第三号に該当する農地として(第一目録の土地については、改正前の同法附則第二項をも適用)買収計画に入れたのは当然であり、これに対する原告等の異議訴願を排斥した被告等の処分には何等違法がないと述べた。(立証省略)

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